テンナンショウの栽培
- How to Grow Arisaema -




■ 種類

  テンナンショウには多くの種類が存在します。 それらの種はそれぞれ異なった土地・環境に生育しており,生育形態や栽培難度もまちまちです。 中には暖地では栽培不可能な種や,冬季に加温が必要な種もあります。
  特に下記の種に関しては,テンナンショウの栽培に慣れた方以外は手を出さないことをお勧めします。 これらのテンナンショウの多くは山地のブナ帯に生育するもので,暑さや病気に非常に弱いものです。 平地では夏越しできず,初夏には地上部が腐ってしまいます。

※ 育てにくいテンナンショウ

カミコウチテンナンショウ・オオミネテンナンショウ
シコクヒロハテンナンショウ・イシヅチテンナンショウ
ヤクシマヒロハテンナンショウ

  ちなみに,こういった種を栽培する場合,冬に加温して早めに出芽させ,暑い夏が来る前に球根を十分に成長させておくというテクニックが知られています。 夏にクーラーで気温を下げるより低コストで管理できるため,よく採られる手法だそうです。 上述の種以外にも魅力的な種は沢山ありますので,無理して育てないのが一番だとは思いますが。



■ 周年の管理

  4〜9月,多くの夏緑性テンナンショウは生育期にあります。 この時期は水切れ,そして強風に気をつけて管理して下さい。 根張りが弱く葉が大きいテンナンショウにとって,強風は案外大敵になります。 風避けを設置するなり,何らかの対策をしておくことをお勧めします。
  なお,テンナンショウが枯れる原因として最も多いのは,夏場の暑さ及び蒸れによる球根や軸の腐敗です。 6〜8月は緩やかな風通しを確保し,できるだけ涼しい場所で管理するよう心がけます。

  10〜3月,休眠期間中は乾き気味に管理します。 掘りあげてビニール袋などに保管しても構いませんが,そのまま鉢ごと管理しても大丈夫です。 強い凍結・乾燥さえ避けていれば問題なく越冬できます。 植え替えもこの時期に行います。


■ 冬緑性の種

  南方系のテンナンショウには晩秋に出芽し,冬に生育,夏に休眠する種が存在します。 いわゆる冬緑性の植物ですが,こういった種は冬季になるべく加温して育てる必要があります。 無理やり生活サイクルを夏緑性の植物に合わせることも出来ますが,その場合,ある程度のダメージを覚悟する必要があるでしょう

※ 冬緑性のテンナンショウ

アマミテンナンショウ・オオアマミテンナンショウ
シマテンナンショウ・オキナワテンナンショウ
トクノシマテンナンショウ・・・等


■ 日照

  テンナンショウは主に常緑樹林の林床,つまり年間を通して薄暗く湿度が豊富な環境に生育しています。 そのため葉は薄く軟質で,強い日差しに耐えられるようには出来ていません。 芽出しの頃は明るい日陰で管理し,葉が展開しきる頃には70パーセント程度の遮光を施すのがよいでしょう。
  数は少ないですが,マイヅルテンナンショウのように日光を好む種も存在します。 多くは草原や湿地に生育する仲間ですが,そういった種は徒長しないよう,少し強めに日を採って育てます。


■ 肥料

  下の「増殖」の項目でも述べますが,テンナンショウは栄養状態によって株の性が変化する植物です。 そのため種を採る目的で栽培する場合,肥培は必須になります。 しかし,多くのテンナンショウは肥料を与えすぎると大型化し,風情も何もない姿になるものです。 鑑賞目的で育てるのであれば,基本的に肥料は必要ありません。 栽培目的に合わせて調節して下さい。


■ 用土

  特に用土は選びません。 大抵の種が地植えでの管理が可能です。 ただ,幼苗や高地性の種は雑菌に弱いため,畑土や腐葉土など汚れやすい土は避けたほうが良いでしょう。 一般的には鹿沼土・赤玉土・軽石などの砂を適量混合して用います。


■ 水遣り

  テンナンショウは基本的に水が大好きです。 自生地でも川沿いや谷間など,常に水分が絶えないような場所に多く自生しています。 特に葉が展開し切るまでは,少しの水切れが致命傷になりかねません。 毎日たっぷり水をあげましょう。 葉が固まった後は,多少の乾燥には耐えられるようになります。 その頃からは,株元の腐りを避けるため,用土の表面が少し乾いてから潅水した方が安全です。


■ 増殖

  テンナンショウの仲間の多くは栄養繁殖しにくく,その増殖の殆どを種子繁殖に依っています。 また,雌雄異株の植物であるため,種子を採るには雄花と雌花を同時に咲かせる必要があります。 つまり,テンナンショウを殖やすためには最低でも2株の成木が必要だということです。 貴重なテンナンショウを入手する機会に恵まれたら,出来るだけ同時に2株以上を購入するよう努めましょう。
  例外的にではありますが,栄養繁殖しやすい種も存在します。 ウラシマソウやヒロハテンナンショウ,ミツバテンナンショウなどがそうです。 根茎の腋芽が子球にまで発達して分球するものが殆どですが,ミツバテンナンショウだけはランナーによる増殖を行います。
  ・・・殖えにくい種をどうしても株分けで増やしたい場合 "球根を切る" という裏技も存在します。 ジャガイモの種芋を切って埋めるのと同じ理屈です。 テンナンショウの球根には一見一つの成長点しかないように見えますが,実は複数の脇芽が存在しています。 球根を半分に切ると,案外両方が成長してくれるものです。 ただ,切った部分からの腐敗や,強烈な作落ちなど,リスクも大きい手法になります。

※ 栄養繁殖しやすいテンナンショウ

ヒロハテンナンショウ・アシウテンナンショウ
イナヒロハテンナンショウ・イシヅチテンナンショウ
オガタテンナンショウ・トクノシマテンナンショウ
マイヅルテンナンショウ・ムサシアブミ
ウラシマソウ・ナンゴクウラシマソウ・ヒメウラシマソウ


■ 播種

  交配はとても簡単です。 雄花と雌花が同時に咲いたら,仏炎苞を剥ぎ取り,雌花の花序付属体下部にある柱頭に花粉を付けてあげるだけ。 受粉に成功していれば,果実がどんどん成長していく筈です。
  果実が成熟し,茎が倒れたら,果肉をほぐして種子を取り出します。 得られた種子は直ぐに培養土に蒔きますが,発芽は1〜2年後になります。 気長に待てば,播種から4〜5年ほどで花が見られるでしょう。
  なお,種を付けた後,しばしばエネルギーを使い果たしたかのように親株が枯れてしまうことがあります。 これはユキモチソウなど,種子を大量に付ける種によく見られる現象です。 気をつけてどうにかなる問題ではありませんが,テンナンショウにとって種子を作るということは,かなり大きな負担になると考えたほうが良さそうです。


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