軽井沢カキランのあれこれ
- Anecdotes of "Karuizawa Kakiran" -




■ 「軽井沢カキラン」とは

  しばしば販売品を見かける「軽井沢カキラン」。栽培書には "長野県・新潟県・岩手県などに分布する,カキランの地域種" などとして紹介されていますが,具体的な自生地は一切明らかになっていない(写真もない)不思議な植物です。近年,同様のタイプのカキランが,「〇〇県産赤花」や「越の誉」,「樺色カキラン」などの名で多く流通しています。別名で同じ個体が出まわったり,怪しげな産地で販売されたりと混乱の多いの植物ですので,簡潔に特徴をまとめてみました。


■ 花の特徴

  「軽井沢カキラン」タイプの個体は,花が全体に大きく萼片が平開し花弁が茶〜サーモンピンクに色づくと言った特徴があります。また,唇弁は白と黄色のツートンカラーで,赤色があまり乗りません。側裂片に多数入る褐色の条や,主脈が目立たない単色の花弁緑色の細い縁取りが入る緑褐色の萼片は "Epipactis sabine" に非常によく似たものでもあります。E. sabine E. giganteaE. palustris の交配種ですので,軽井沢カキランも同様に E. gigantea 等の血が入った交配種なのではないか,との考えもあるようです。軽井沢カキランが登場した当時,海外の地生ランが一気に導入され,様々な交配種が作出されていたことを考えると,なにげに信憑性の高い説なのかも知れませんね。
                                         
軽井沢タイプのカキラン 通常のカキラン
「軽井沢カキラン(茶花カキラン)」 愛知県豊田市産
「樺色カキラン」 東京都八丈島産
「越の誉」 鹿児島県大隅半島産


■ 草体の特徴

  まず,よく言われることですが,「軽井沢カキラン」タイプの個体はとにかくでかいです。花茎も含めると,当然のように50cmを越えていきます。下記,右上の写真は鹿児島県大隅半島産のカキランで,かつて見た国産系統の中ではもっとも大きいものです…が,軽井沢カキランに比べると大したことのないサイズに見えてしまいます。また,葉のつき方もやや異なり,通常のカキランの葉が上下被り気味に展開するのに比べ,軽井沢カキランは被らないようバラバラの方向に葉をつけます。出芽時も、明らかに下方に葉が少ない展開の仕方をしますので、花がなくても見分けは可能です。
                             
軽井沢タイプのカキラン 通常のカキラン
「越の誉」 鹿児島県大隅半島産
「軽井沢カキラン(紺覆輪)」 「大黒天」


■ 生態の特徴

  その他,軽井沢カキランは生態においても特徴があります。なんといっても,まず丈夫。根が傷みにくく,増殖率は年三倍。あらゆる点に置いて国産のカキランを凌駕します。加えて,出芽がやや遅く、通常のカキランに1〜2週間ほど遅れて土を割ります。
  また,通常のカキランに比べると,結実率が非常に悪い点も大きな差です。イソマカキランを始め,国産のカキランは放っておいてもそこそこの確率で結実するのですが,軽井沢カキランはほぼ不稔になります。子房すら膨らみません。これらの特徴も,やはり軽井沢カキランが交配種だと考えると納得がいくものです。
  追記(2016.05.22):当時の事情に詳しい方に聞いたところ,10年以上前、「軽井沢カキラン」タイプによく似たカキラン交配種が一気に入荷された時期があったそうです。それが数年後に『越の誉』などとして流通し始めたとか。似たような花を咲かせる「〇〇県産赤花」にはご注意ください。


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