栽培不可能な植物
- Untouchable Species -




■ 栽培不可能って?

  栽培家の会話において "ある植物種の栽培が不可能であるか" ということは,かなりの頻度で俎上に載せられる話題です。 これは植物を入手する際における妥当性の如何にも直結する大切な事柄ですが,なかなか一定の結論が得られません。 確かに,栽培難易度は環境によって大きく異なりますし,個人の持つ設備や技術,割ける労力量によっても変化するものです。 よって,この現状もある程度は仕方ないことなのでしょう。
  しかし,現実問題として,栽培下での長期維持が不可能であることが半ば証明されている種は多数存在します。 このページでは,そういった植物が栽培できない理由を,それぞれパターン別に検証してみようと思います。


◆ 原因@ アクシデントに弱い

  ナメクジの食害や,ちょっとした病気などですぐに枯れてしまうタイプです。 落葉性リパリスなどが該当します。 こういった植物は一時的に調子よく栽培できることもありますが,多くの場合,数年のうちに消え去ります。
  シュスランなども同様のアクシデントに弱いものですが,こちらは落葉性リパリスとは異なり,増殖,ひいてはバックアップが容易なため,長期的な維持も可能になっています。 野生ランのように維持すら簡単ではない植物は "増殖しない" という性質だけでもかなり致命的なのです。 ナメクジや軟腐病,ウイルスを完全に防ぎきることが出来ない以上,株分けでリスク分散出来ないものはいつかは枯れます。 無菌培養技術を持たずにこういった種に手を出すのは,切り花を買うのと同じだと思ったほうがよいでしょう。


◆ 原因A 寒さに弱い

  暑さに弱いものよりは対策が容易ですが,それでも度が過ぎたものは大変です。 エダウチヤガラやコウトウシランなどが良い例ですが,これらの種は冬季に15℃を割ると調子を崩し,夏季でも本州の気温・日照レベルでは生育不良を起こします。 南方で雑草のように生えている植物を,関東で無理して育てる意味も乏しいですし,手を出すだけエネルギーの無駄かも知れません。


◆ 原因B 暑さに弱い

  高山や北方のランの多くが該当します。 魅力的な種が多いこともあり,野生ラン栽培においては最も厄介とも言える性質です。 こういった種は,生育期間中に数日でも暑さに当たると成長がストップし,衰弱していきます。 また,寒冷地の植物は,低地の雑菌や病害虫にも弱いことが多く,騙し騙し夏を乗り切っても軟腐病で全滅,というパターンも多いようです。


◆ 原因C 個体寿命が短い

  先天的に寿命が短い植物です。 種子の発芽率が良いものに多く,キヌランやホテイラン,落葉性リパリスなどが該当します。 キヌランのように栽培自体が容易なものは,環境さえ良ければ種子更新も可能ですが・・・ホテイラン等は手の施しようがありません。 自生地や培地上でも花が咲くと枯死するそうですから,鉢で毎年花を見るなど夢のまた夢です。


◆ 原因D 共生菌への依存度が高い

  ラン科植物は多かれ少なかれ "共生菌" と呼ばれる菌類に依存して生活しています。 菌の種類や依存の度合いは種によって大きく異なりますが,その依存率が高ければ高いほど鉢での栽培は難しくなります。 依存度が高いことで有名なキンランは,炭素同化の半分以上を菌に頼っているそうです。
  一見普通の植物に見えるものの,実際は菌への依存率が非常に高いランとしては,キンランの仲間・サイハイランの仲間・ヒトツボクロ・オオバノトンボソウ・ヤクシマラン・アオスズランなどが挙げられます。 これらの種は鉢に上げると,大抵が数年も経たないうちに衰弱・枯死してしまいます。 なお,こういった植物でも,究極的に言えば無菌培養・共生菌培養によって栽培が可能ですが,一般の趣味家にそれは難しいでしょう。


◆ 原因E 環境適応力が低い

  暑さ寒さに弱いわけでも,菌への依存度が高いわけでもないのに栽培が難しいタイプです。 マメヅタランやカヤラン,モミランなどの小型着生ランが該当します。
  これらの種が栽培できるかできないかは,単純に栽培家の力量,もしくは栽培環境に依ります。 実際,一般的に栽培は不可能に近いと言われている,クモランやマメヅタランなども,十年単位で維持・増殖している人は存在します。 これらの種は水加減や通風・日照・日の採り方などの条件が僅かに変わっただけで枯れることもあり,作り込むのはある種神業に近いものです。 どうしても育てたいと思う方は,栽培環境・技術を地道に固めましょう。


BACK

inserted by FC2 system