キンラン属の栽培に関して
- Cephalanthera -




■ キンラン属とは?

  キンラン属(Cephalanthera)は,東アジアを中心に広く分布する地生ランの仲間です。 日本にはキンラン・ギンラン・ササバギンラン・ユウシュンラン・クゲヌマランの5種が自生しており,野草好きにとっては比較的馴染みの深いランでもあります。 いかにもランらしい草姿と,輝くような花色を持つ,とても魅力的な植物です。
  しかし,この仲間は何故か栽培できないことが知られており,古くから野に置くべき花の筆頭として扱われてきました。 移植や鉢上げに弱く,元から生えている場所から移動すると枯れてしまう。 そのうえ花が美しく,人里近くに自生するため,多くの人々がチャレンジしては枯らしてきた "やっかいな" 植物なのです。

■ なぜ栽培が難しいのか

  ラン科植物の殆どは "ラン菌" と呼ばれる共生菌から栄養を得て暮らしています。 こういった菌への依存度は個体や種によって差があり,そのレベルが高いほど栽培が難しくなります(究極形はショウキランなどの "腐生ラン" ですね)。 キンラン属はこの依存度がかなり高い仲間であるため,栽培が難しいのです。 なお,国内産キンラン属における,種毎の共生菌への依存度の高さは,大体次のような順になっています。

ユウシュンラン > ギンラン > ササバギンラン > キンラン ≒ クゲヌマラン?
※ 左に行くほど菌への依存度が高まります。つまり性質が腐食ランに近づく。

  また,キンラン属の共生菌が樹木の外生菌根菌であることも,鉢栽培が上手くいかない理由の一つです。 通常,ラン科植物の共生菌は腐食菌(落ち葉や枝を腐らせる菌)であるため,ダンボール等の有機物を培養土に混入することで共生菌の活性化や維持を図れます。しかし,共生菌が菌根菌(生きた植物の根に共生する菌)の場合,それが上手く出来ません。 菌根菌自体が樹木へ依存して生育しているため,その菌を鉢内で維持するためには,その樹木ごと鉢へ持ち込む必要があるからです。 つまり,キンラン属の植物を栽培したいのなら,キンランが依存している共生菌(イボタケ・ベニタケ等)が共生している相手の樹木(ブナ科・マツ等)を同時に育てる必要がある,ということです。 ラン・菌根性樹木・菌根菌の三者共生関係を構築しなければ,遅かれ早かれキンランは消滅します。

◆ 解決策@ 無菌培養苗の利用

  以上の様な理由で "キンランの仲間は育てられない" というのがこれまでの一般認識でした。 それではこの仲間の栽培は諦めたほうがいいのか,という話になりますが,それは,つい最近まではそうでした。 どういうことかといいいますと,近年,ランの生産業者によって "キンランの無菌培養苗は共生菌なしでも育つ" ということが明らかにされたのです。 なぜそうなるのかは今のところ不明ですが,"瓶の中では菌への依存度が低い個体のみが発芽・成長できるから" とか "菌への依存体制は成長過程に形成されるから" といった説が考えられています。 理由はさておき,この "無菌培養キンラン" なら,普通の山野草と同様に育てられるということです。
  因みに右の写真はアルペンガーデンやまくさにて入手した無菌培養苗です。瓶出し3年目の苗で,鹿沼土単用にも関わらず毎年作が上がっています。

◆ 解決策A 樹木との混植

  共生菌の維持に樹木が必要なら,その樹木ごと鉢に植えてしまおう,という発想です。 混植には,キンランの共生菌の依存相手であるブナの仲間(コナラ・シイ・カシ)若しくはマツの仲間(クロマツ・アカマツ)を用います。 成功例は散見されますが,共生菌の定着は運任せなため,上手くいくことの方が少ない方法です。 共生菌のキノコを見つけてきて,得られた胞子を用土に混ぜ込めば,少しは成功率が上がるかもしれません。

■ 効果が期待できない方法

  ご紹介したとおり,キンランの共生菌は樹木の外生菌根菌であり,腐食菌ではありません。 このため,以下に挙げる方法では本質的な効果は期待できないものと思われます。

ダンボール栽培・他種のランとの混植・特殊な用土の利用・自生地の土の利用

  誤った理解・方法で貴重な植物を浪費するのは避けましょう。
  追記(2016.05.22):最後に,そもそもの話ですが……キンランの仲間は個体寿命自体があまり長くはありません。各所の観察記録をまとめてみると,同一個体が確認できるのは長くて5〜6年ほどであるようです。つまり,どんなに栽培が上手くいっても,寿命が尽きれば枯れてしまう。最後は使い古したキノコ栽培キットのように,消えて土くれに戻ってしまうのです。特に,野外で花を咲かせている個体など,傘を開ききったシイタケのようなもの。野外個体を掘ったり売ったりなど,意味のない行為は慎みましょう。

■ 種別概説

キンラン Cephalanthera falcata

  現在,この仲間で唯一商業生産が為されている種。 早春に他の植物に先駆けて,鮮やかな黄色の花を多数咲かせる。 この仲間では共生菌への依存度が低い方であり,移植後数年に亘って開花した例もある。 典型的な里山の植物だが,1990年以降,開発や採集により急激に減少し,今は絶滅危惧種に指定されている。

ギンラン Cephalanthera erecta

  キンランに少し遅れて白い花を咲かせる種。 花に苞葉は無く,通常の根とともに太い紡錘状の根を多数持つ。 菌への依存度が高く,培地上では種子の発芽・成長が非常に悪い。 現状,栽培は不可能であり,将来的にも見通しは立っていない。

ササバギンラン Cephalanthera longibracteata

  ギンランに似るが,長い苞葉を持ち,全体にギンランより大きくなる。 個体数が比較的多い種で,環境適応能力も他種に比べて高い様子。 ギンランより幾分か依存度は低いが,こちらも栽培は難しい。

クゲヌマラン Cephalanthera alpicola var. shizuoi

  ギンランに似るが,葉に光沢があり,花に距がない。 本来,太平洋側海岸の限られたクロマツ林にのみ分布する種だが,近年は日本各地で大群落が確認されている。 近年確認されているタイプには非常に丈夫なものが多く,移植後にも平気で花を咲かせている個体をよく見る。 要検証。

ユウシュンラン Cephalanthera subaphylla

  日本に自生するキンラン属の中では最も共生菌への依存度が大きい種。 葉が非常に小さく,炭素同化の殆どを菌に頼っていると考えられる。 腐生ランに近い生育形態を示すため,栽培は不可能。


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