トキソウ  Pogonia japonica
特徴
  茎は高さ20a程で,中途に革質の葉を1個つける。 花は茎の先端につき,白〜薄桃色。唇弁には肉質の毛状突起が密生する。
分布
  北海道・本州・四国・九州
開花期
  5月〜7月
自生環境
  冷温帯〜暖温帯の日当たりの良い湿原及び湿地に生育する。
備考
  絶滅危惧II類(環境省)
現状
  主に湿地の開発によって減少した種です。 現在でも高層湿原では必ずといっていい程その姿を見ることができます。
  毎年春になると近所のホームセンターでも販売品を見ることが出来たのですが,近年あまり見掛けなくなってしまいました。 これを端緒に,自生地での採集圧が高まるようなことがないよう祈ります。

● 管理
  トキソウは普及種である割に,栽培がやや難しい植物です。 「普及種はカンタン」というイメージは捨てて栽培に臨みましょう。
  トキソウの長期維持を難しくしている最大の要因は体力の無さです。 しっかりとした栄養貯蔵器官を持たないトキソウは,たった一度の乾燥や羅病・不調等によって回復不可能なダメージを受けてしまいます。 そのため,調子がよく見えても毎年必ず植え替えをし,安定した環境で育てることが大切になります。 なお,植替えは必ず凍結の心配がなくなる時期(桜の開花後)に行います。 植え替え後に凍結させると芽が腐る事が多いです。
  日光は可能な限り強く採って下さい。真夏の直射光も大歓迎です。
  肥料はやらないほうが無難です。 特に水苔で植えこんでいる場合は,一年を通して無肥料で管理します。
  湿生植物ですので水は当然大好きです。 根茎が乾燥すると瞬く間に枯死しますので,毎日水をあげている場合でも,不慮の事故に備えて腰水で栽培することをお薦めします。 腰水にする場合,鉢の3分の1程度の高さまで水に沈めてしまっても構いません。 ただ,トキソウも他のランと同じく停滞水を嫌います。 腰水にしているからといって水やりを怠ると、水の傷みや蒸れによって一気に衰弱してしまうことがあるので注意して下さい。 最低でも2日に1度はたっぷり水を与えましょう。
  冬季も乾燥させないように管理します。 池やビオトープがある場合,そこに鉢の半分ほどを沈めて管理すると安心です。 凍結で痛むことはあまり無いですが,霜柱などによって根茎が外に押し出されてしまうことがあるので要注意です。

● 植え込み
  水苔単用,砂植えどちらでも問題ありませんが,それぞれ一長一短があります。
  水苔単用の場合,根茎の伸長が良く,増殖率も高いものとなるのですが,コストが大きい,植え替えし辛いといった欠点があります。 また,輸入された乾燥水苔は殺菌・除草が行われているため,薬剤耐性に乏しいトキソウは調子を崩してしまう場合があるので気をつけます。 質の良い生水苔が手に入るのでしたらそれがベストなのですが,植え替えの度に新しい生水苔を用意するのは簡単ではありません。 長い目で見れば,簡単に手に入る素材で栽培することが長期維持につながります。
  砂植えの場合は,植え替えしやすく,品質も安定しているため,常に一定の栽培成果を出すことができます。 欠点としては,水持ちがあまり良くない,根詰まりしやすいといったことが挙げられます。 用いる土の種類としては,日向土・赤玉土・鹿沼土の小粒〜中粒が良いでしょう。 刻んだ水苔と砂を1対1で混ぜた用土は両者のいいとこ取りでオススメです(作るのは面倒ですが)。
  鉢は特に選びませんが,乾燥しにくく,断熱性に富んだものを用いるのが無難です。 トロ箱も良いのですが,毎年植え替えるには少しサイズが大きすぎる感があります。 たまに「高密度で植えないと花つきが悪くなる」といった記述を見かけますが,あまりそのような感じは受けません。 1本でも栄養状態の良い個体は開花しますし,ぎゅうぎゅうに植わっていても1,2輪しか咲かないこともあります。

● 増殖
  栄養増殖率は非常に良く,年に3倍近く増殖することも珍しくないです。 が,少しの管理ミスで一気に減少させてしまうこともよくあります。 増えたら株分けし,危険分散に務めたほうが安全でしょう。 園芸書には根茎を切って繁殖させる方法が大抵記されていますが,切り口から腐ることが非常に多いため,お勧めできません。 調子よく育っていれば,何もせずとも勝手に増殖します。
  実生は稀に得られる程度です。 意図的に播種しても発芽しない場合が多いのですが,いつの間にか関係のない場所に生えていることがしばしばあります。
                 
2013.5.6.  4月末からパラパラと出芽 2013.6.10  初夏には満開 2013.1.14  根茎はラーメン状

品種
水戸の白
  昭和39年頃,茨城県水戸市の湿地(現在はゴミ処理場)にて群生状態で発見された純白花。 トキソウの白花は唇弁多毛部底部に多少の色素を残す場合が多いのですが,この個体はその色素が完全に抜けています。 渡辺平三郎氏などを始めとして様々な人の努力により増殖され,普及品となるに至りました。
松山の白
  大正10年頃,四国松山の湿地にて発見された赤軸の白花。 現存する野生ランの変異個体としては最も古いものの一つになります。 余り意識されませんが,軸元の色素が残ったまま花だけ色素が抜けるというのは極めて稀な変異です。 トキソウの白花としてはポピュラーな品種で,一般の園芸店でも度々目にします。
関連種
Pogonia
ophioglossoides

  北米産の近縁種。 日本のものよりも唇弁・側花弁が広いのが特徴です。 増殖率が良く,上手く育てれば毎年3倍以上のスピードで増殖します。 加えて非常に強健で,高温・低温・過湿・乾燥,全ての耐久性において在来種を上回ります。 園芸品種としては非常に優れたものですが,「日本トキソウ」としてこの種が販売されていることがあるので注意して下さい。


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